通勤電車や車の中で急におなかが痛くなる、会議や試験の前になるとどうもおなかの調子が乱れがち…、そんな症状で困っているものの、一時的なものだろうと放置している方は多いと思います。そのような症状が長期間に渡って続いている場合は、「過敏性腸症候群」という病気の可能性があります。
一方、過敏性腸症候群と思っていたら、他の重大な疾患であったという事もありますので、その特徴をよく理解しておくことが重要です。
腸に原因となる異常が見当たらないのに、腹痛や腹部の不快感、下痢・便秘といった便通異常が起こることが過敏性腸症候群の特徴です。命にかかわる病気ではありませんが、日常生活の質を著しく低下させます。消化器科を受診する人の3割が、この病気という報告もあります。
過敏性腸症候群のタイプは、下痢症状が多い「下痢型」、下痢と便秘の症状を繰り返す「混合型」に加え、便秘症状が多い「便秘型」などがあります。
はっきりとは解明されていませんが、腸と脳は密接な関連があり、脳の中枢神経は、腸の運動や分泌、免疫機能、血液の流れなどを調節し、腸からも脳に情報が伝達されています。そのため、私たちがストレスを感じると、脳から腸にその情報が伝えられ、腹痛や下痢などの症状があらわれると考えられます。
また、過敏性腸症候群の方とそうでない方との「腸内細菌叢」の違いも一因であるとわかってきました。腸内にいわゆる悪玉菌が増えた状態では、腹痛や腹部の不快感といった過敏な応答が起きやすいのです。
ストレスが主な原因と考えられる場合は、「抗不安薬」や「抗うつ薬」などを使うケースがあります。この中で、最近特に注目を集めているのが、「セロトニン3受容体拮抗薬」です。その他に、腸内細菌叢のバランスを整える目的で、整腸剤が処方されます。
一方、たまたま他の疾患で服用した抗生物質や抗菌剤により、過敏性腸症候群が改善したという例もありますが、その効果は紙一重で逆に腸内細菌叢のバランスを崩してしまうリスクがあり、国内では積極的に行われておりません。感染性の下痢が疑われる場合には、下痢止めの安易な使用を控えることが重要ですが、過敏性腸症候群の場合は、対症療法として必要時に限り下痢止めを使用していただいて特に問題ないと考えられます。
治療の第1ステップは、食事の指導と生活習慣の改善です。昼夜逆転や夜型の生活スタイル、不規則な食生活、睡眠不足は腸の働きに影響し、症状を増悪させるからです。
また、下痢や便秘などの便通異常は、服用している薬や食品によって起きていることがあります。下痢をしやすい方は、乳糖・人工甘味料・マグネシウムなどを含む食品を摂り過ぎている場合もあるので、薬やサプリメント、食品の内容をチェックすることも大事です。