飲食物や唾液などが誤って気管に入ってしまうことを「誤嚥」といいます。このとき、唾液や胃液と一緒に細菌が肺に入り込んでしまい引き起こされるのが「誤嚥性肺炎」です。2016年の統計によると、肺炎による死亡者は、日本人の死因のうち、がん、心臓病に次いで3番目に多く、そのうち97%は65歳以上で、とくに高齢者では誤嚥性肺炎が多いと考えられています。
通常、食べ物が食道ではなく気管に入ってしまった場合、むせて排出する反射機能が働きます。しかし、この機能が加齢等により鈍ってしまうと、気管に入り込んでしまった食べ物を排出できず、結果として誤嚥性肺炎を起こす原因となります。ただし、誤嚥したからといって必ず肺炎になるわけではなく、肺炎になるかどうかは、誤嚥物と体の抵抗力のバランスで決まります。
誤嚥が生じるのは食事中だけではなく、「のどに残った飲食物を、食後に誤嚥する」、「口の中で繁殖した細菌を、唾液などの分泌物と一緒に誤嚥する」「睡眠中に、胃食道逆流により胃の内容物を誤嚥する」こともあります。また口を使わず、胃に直接チューブを入れて栄養物を送り込む(経管栄養)状態の方でも、唾液や異物が気管に入り、誤嚥性肺炎を起こすことがあります。
食べ物を飲み込むことを嚥下といい、この機能が低下することを嚥下障害と呼びます。
誤嚥性肺炎には、「発熱、激しい咳と膿性痰(黄色いタン)が出る」「呼吸が苦しい」「肺雑音がある」等の典型的な症状がありますが、これらは風邪と間違えて診断されてしまうこともあります。さらに高齢者の中には、解熱鎮痛剤を常用していたり、発熱などの免疫応答機能が低下していたりすることもよくあり、誤嚥性肺炎の発見が遅れやすいため、日頃からまわりの方の注意が必要です。
食事中は姿勢や環境を整え、嚥下に意識を集中させることが大切です。また、食後は必ず口腔ケアを行いましょう。要介護者の場合は、食後は腹部を圧迫しないように、2時間以上は上体を起こしておきましょう。ベッドのリクライニングを15~20°度にして、頭を高く保つことも有効です。また、咀嚼に問題がある場合は、食材を刻んだり、軟らかく煮たり、押しつぶしたり、パサつくものには「とろみ調整食品」でとろみを付ける等の工夫をしましょう。